マンジャロとウゴービの違い — GLP-1ダイエット注射が食欲を抑える仕組みと、やめたあとの体の変化
By Dr. Kim1 min read

診察室で体重の話になると、必ずといっていいほど出てくる薬が2つあります。マウンジャロとウゴービです。ほんの数年前まで、肥満は本人の意志の問題と片づけられがちでした。それが、食欲をコントロールするホルモンに直接はたらく注射薬が出てきたことで、ここ数年で大きく変わってきています。臨床試験で報告された減量の幅はこれまでのどの薬よりも大きく、注目が集まるのも無理はありません。周りで「効いた」という話を耳にした方も多いと思います。ただ、この薬が実際に体の中で何をしているのか、2剤がどう違うのか、やめるとどうなるのか。そこまできちんと知ったうえで来られる方は、まだそう多くありません。効果の強い薬ほど、正しく理解してから始めていただきたいと思っています。この薬に何ができて、何ができないのか。診察でまずお話しするのは、いつもそこからです。

そもそもこの薬はどんな薬なのか
上のグラフは、GLP-1系の薬3種類の平均体重減少率を並べたものです。棒が短いリラグルチドが約8%、セマグルチドが約14.9%、いちばん長いチルゼパチドが約20.9%。作用するホルモンが増えるほど減量の幅も大きくなる、という流れが一目で見てとれます。ただし棒ごとにもとになった試験が違うので、同じ土俵で比べた数字ではない、という点は先にお断りしておきます。
2剤はどちらも、GLP-1というホルモンのはたらきをまねた注射薬です。GLP-1は食事をすると腸から出てくるインクレチン系のホルモンで、インスリンの分泌を助けて血糖を下げる一方、脳の食欲中枢に「もう十分」という合図を送ります。食事の終わりごろに、体が自分で「もう食べなくていい」というスイッチを入れる仕組み、とイメージしてもらえればいいと思います。ウゴービの成分であるセマグルチドは、このGLP-1とほぼ同じはたらきをするように作られた薬です。ただ、体の中のGLP-1は分泌されてから数分で分解されてしまうのに対し、セマグルチドは1週間ほど効果が続くように構造に手を加えてあります。もともとは2型糖尿病の薬として開発されたのですが、体重を減らす効果があまりに大きかったため、肥満症の治療薬としても使われるようになりました。
マウンジャロは、そこからもう一歩進んでいます。マウンジャロの成分であるチルゼパチドは、GLP-1だけでなく、GIPというもう1つのインクレチンホルモンにも同時にはたらきかけます。2つのホルモン受容体を同時に刺激するので、「デュアルアゴニスト(二重作動薬)」と呼ばれます。食欲を抑えるスイッチを、1つではなく2つ同時に押すイメージです。GIPが単独で何をしているのかはまだはっきりとは分かっていませんが、2つのインクレチンを一緒に刺激すると、食欲を抑える力も代謝を整える力もより大きく出ることが分かっています。
1つだけ、はっきりお伝えしておきたいことがあります。これらの薬は、脂肪を直接溶かしたり燃やしたりする薬ではありません。食べる量と食欲そのものを変える薬です。薬がはたらくのは脂肪ではなく、脳と消化管です。ここを勘違いして「打っておけば勝手に痩せるだろう」と食事を放っておくと、効果は半分になりますし、やめた後に戻りやすくもなります。グラフで見た減量幅の差も、薬によってこの食欲の変わり方が違うために出てきます。

どうして体重が減るのか
かなめは食欲を抑えることです。ただ、歯を食いしばって我慢するのとは話が別です。この薬は脳の食欲中枢にはたらいて空腹感そのものをやわらげ、同時に、少し食べただけで早く満腹になるようにします。いつもなら1人前を平らげていた方が、半分のところで自然に箸を置ける。そんな変わり方です。意志の力で抑え込むのではなく、そもそも「もっと食べたい」という気持ち自体が薄れるので、ダイエットでいちばんつらい「空腹との闘い」がぐっと楽になります。
これに加えて、胃の中身が腸へ送られるスピードが遅くなるはたらきも重なります。食べ物が胃に長くとどまるぶん満腹感が続き、食事と食事のあいだに間食をしたくなる気持ちも薄れます。1時間で空になっていた水タンクの排水弁を少し絞って、2〜3時間かけてゆっくり空になるようにした、というイメージです。ただ、このはたらきのせいで、打ち始めのころは胃がもたれたり吐き気が出たりする方が少なくありません。1回の食事の量を減らして、脂っこいものを控えると、いくらか楽になります。
よく聞かれるのが「運動しなくても痩せますか」という質問です。薬が摂取カロリーを減らしてくれるのは確かです。ただ、体重が減るときには脂肪だけでなく筋肉も一緒に落ちやすいものです。タンパク質をしっかりとり、筋力トレーニングを並行すると、減った体重の「質」が良くなりますし、やめた後に戻る幅も小さくできます。
この薬を使い始めて、まず最初に変化を感じるのは体重計の数字ではなく食欲です。「食べ物のことを前ほど考えなくなった」「食べていても途中でやめられるようになった」。そんな声をよく聞きます。体重はその結果として、あとから少しずつついてきます。逆に薬をやめて食欲が戻れば、この変化も一緒に消えてしまいます。上のグラフが示しているのが、まさにそこです。薬を続けた群はその後さらに平均7.9%減ったのに対し、やめた群は逆に平均6.9%戻りました。2本の棒が正反対に分かれている、ここが肝心です。食欲を抑えていたはたらきがなくなれば、減っていた体重のかなりの部分が戻ってくる、ということです。この薬を長い目で考えなければならない一番の理由で、これについては後ほどあらためてお話しします。

臨床試験ではどのくらい減ったのか
感覚的な話だけでは判断しづらいので、実際の試験の数字を見てみましょう。上のグラフでは、セマグルチド2.4mgが約14.9%、チルゼパチドが5mgで約15%、10mgで約19.5%、15mgで約20.9%となっています。棒が用量の順に高くなっているのが目を引きますが、用量を上げるほど平均の減量幅も大きくなった、と読んでいただければと思います。
ウゴービの根拠になった代表的な研究がSTEP 1試験です。肥満症のある成人にセマグルチド2.4mgを週1回、68週間使ったこの試験で、平均体重が約14.9%減りました。100kgの方なら、平均で15kg近く減ったことになります。食事と運動の管理だけを行った比較群が約2.4%の減少にとどまったのと比べると、はっきりした差です。ひとつ付け加えると、この14.9%はあくまで平均です。同じ薬を同じ用量で使っても人による差が大きく、思った以上に減る方もいれば、あまり減らない方もいます。「自分も必ず15kg落ちる」と思い込むより、数か月使ってみて、自分の体がどう反応するかを確かめていく。その過程が必要です。
マウンジャロの根拠はSURMOUNT-1試験です。チルゼパチドを週1回、72週間使ったこの試験では、用量によって減量の幅が変わりました。5mgで約15%、10mgで約19.5%、いちばん高い15mgでは平均体重が約20.9%まで減りました。用量を上げるほど効果が大きくなる、という傾向がはっきり出ています。
ただ、1つだけはっきりさせておきたいことがあります。この2つの数字は、それぞれ別の試験から出た結果です。2剤を同じ条件で並べて比べた試験の数字ではありません。参加者も期間も管理のしかたも違う、いわば別々の試合の記録を横に並べただけですから、「マウンジャロはウゴービより何%優れている」と言い切るのは難しいのです。大きな流れとして見れば、どちらもかなりの減量効果が出ていて、チルゼパチドの高用量でより大きな幅が報告されている。そのくらいの受け止め方が正確だと思います。

2剤はどこが違うのか
いちばん根本的な違いは、はたらきかけるホルモンの数です。ウゴービはGLP-1の1つに、マウンジャロはGLP-1とGIPの2つに同時にはたらきます。さきほどの臨床試験でチルゼパチドの減量幅が大きかったのも、この二重のはたらきがあるためと考えられています。もっとも、効果が強いということは、それだけ食欲の変化やお腹の症状もはっきり出やすい、ということでもあります。
使い方は2剤ともよく似ています。どちらも週1回、お腹や太ももの皮下に自分で打つタイプです。毎日ではなく週に1回なので負担が少なく、ペン型なので自分で打つのもそう難しくありません。最初から多い量を使うのではなく、少ない量から始めて4週間ごとに少しずつ増やしていく、というのも共通しています。こうして段階的に上げるのは、このあとお話しするお腹の副作用をやわらげるためです。用量を急いで増やすと吐き気がきつくなって薬をやめてしまう方が多いので、効果が出るのが遅く感じても、決められた段取りどおりに増やしていったほうが、結局は遠くまで行けます。
名前がややこしいので、ここで一度整理しておきます。製品名と成分名は別のものです。マウンジャロは製品名で、その成分がチルゼパチド。ウゴービも製品名で、成分はセマグルチドです。同じセマグルチドでも、糖尿病用(オゼンピック)と肥満症用(ウゴービ)では製品名も承認された用量も違います。ほぼ同じ時期に知られるようになったサクセンダはリラグルチドという別のGLP-1薬で、毎日打つという点で先の2剤とは違います。名前が似ているので、どうしても混同しやすいところです。

副作用と必ず知っておくべき注意点
いちばん多い副作用は、お腹まわりに集まっています。上のグラフは、セマグルチド2.4mgを使った方で吐き気が43.9%、下痢が29.7%、嘔吐が24.5%にみられたことを示しています。棒がいちばん高い吐き気は半数近くの方が経験した、ということですから、この薬を始めて最初にぶつかる症状が何かは、あらかじめ知っておいてもらえればと思います。吐き気、嘔吐、下痢、便秘が代表的です。胃の中身をゆっくり送り出すはたらきと直結した症状なので、裏を返せば、薬がきちんと効いているサインでもあります。たいていは薬を始めたときや用量を上げた直後に強く、体が慣れてくるにつれて少しずつ落ち着いていきます。用量を一気に上げず、数週間かけてゆっくり増やすのは、これが理由です。
ここで、必ず押さえておいてほしい禁忌があります。ご本人または血のつながった家族に甲状腺髄様がん(MTC)や多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)がある方は、この薬を使ってはいけません。動物実験で甲状腺の腫瘍のリスクが確認されていて、2剤ともボックス警告として絶対禁忌に挙げられています。これとは別に、膵炎をしたことがある方、胆のうの病気がある方、妊娠中の方や妊娠を考えている方は、始める前に必ず医師に相談してください。痩せたいという気持ちだけで自己判断して薬を手に入れるのをおすすめしないのは、そのためです。自分の病歴をしっかり確認したうえで、始めてよいかどうかを決める必要があります。
最後に、いちばん見落とされやすい点です。この薬は、やめると体重がかなり戻ってくる傾向があります。食欲を抑えていたはたらきがなくなれば、食べる量が元に戻るからです。ですからこの薬は、1〜2か月使って終わりという短期の処方ではなく、食事や運動といった生活の管理と一緒に、長く付き合っていく治療に近いものです。薬だけで片がつく話ではない。そこを最初から頭に置いておいていただくとよいと思います。

日本ではどのような状況か
日本では、ウゴービが2023年に肥満症の治療薬として承認され、その後、保険が使えるようになりました。ただし保険がきくのは、BMI35以上、またはBMI27以上で高血圧・脂質異常症・2型糖尿病などの合併症がある、といった一定の基準を満たした場合に限られます。マウンジャロも先に2型糖尿病の治療薬として使われていて、肥満症のほうへも使える範囲が広がってきています。
ただ、薬がどれだけ手に入るかは、時期によって大きく揺れてきました。世界中で需要が集中したために一時は入手が難しく、処方がうまくいかない時期もありました。今この時点で実際に手に入るのか、処方してもらえるのかは、かかる医療機関で直接確かめていただくのが、いちばん確実です。
保険がきかない場合は自由診療になり、費用の負担も小さくありません。月に数万円ほどになることもあり、体重を保つために長く続けるとなると、積み重なった費用はかなりの額になります。効果の評判を聞いて、医療機関を通さずに個人輸入や海外のサイトから薬を手に入れようとする方もいますが、これはおすすめできません。保管や流通の途中で品質が落ちている恐れもありますし、自分に合う薬なのか、ちょうどよい用量はどのくらいか、副作用が出たときにどう対応するかは、いずれも診察のなかで判断すべきことだからです。
最後に、1つだけお伝えしておきたいことがあります。マウンジャロにせよウゴービにせよ、効果の強い薬であることは確かですが、誰にでも同じように合う薬ではありません。今の体重の状態、合併症があるかどうか、さきほどお伝えした禁忌にあてはまらないか、そして薬を長く続けられる環境にあるか。そのあたりを総合的に見たうえで、始めるかどうかを決めていただきたいと思います。BMIがそれほど高くないのに、美容目的で無理に使うのもおすすめしません。気になることがあれば、薬を探す前に、まず医療機関で相談してみてください。
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診療を行う美容医師が執筆しており、一般的な教育目的です。個別の医療アドバイスに代わるものではありません。