美白注射のグルタチオンはなぜ肌を白くすると言われるのか、その根拠はどこまで確かなのか
By Dr. Kim1 min read

クリニックのホームページや美容系のコミュニティで、美白注射という名前を一度は見かけたことがあると思います。成分表を見てみると、たいていグルタチオンという物質が入っています。肌が白くなるという話はよく耳にしますが、なぜそうなるのかという説明は意外とあっさり流されがちです。
グルタチオンはもともと私たちの体の中にすでに存在している物質です。肝臓でつくられ、体中の細胞で働いています。この物質が肌の色とどう関係しているのか、注射で入れると本当に経路が変わるのか、そしてその根拠はどこまで確認されているのかを、一つずつ見ていきます。
美白注射とは何なのか
美白注射は、特定の成分ひとつを指す正式な名称ではありません。グルタチオンを主成分にビタミンCなどを混ぜて点滴で入れる注射をまとめて呼ぶ呼び方に近いものです。
クリニックによって配合が少しずつ違うため、成分と用量は施術前に自分で確認しておくのが安心です。名前はひとつでも中身はそれぞれ違うことがあると知っておくと役に立ちます。
グルタチオン注射は、そもそも美白を目的として開発されたものでもありません。もとは肝機能をサポートしたり、抗がん剤治療の副作用を和らげたり、体内の解毒を助ける目的で使われてきた成分です。この目的で高用量の点滴を受けていた患者さんの肌が明るくなる変化が見られたことから、美容目的の使用が広がっていったという経緯が知られています。いわば、別の用途で使われていた薬が思いがけない副次効果でむしろ有名になったケースに近いのです。
メラニンはどうやってつくられるのか
肌の色を決める最大の要因はメラニンという色素です。メラニンはメラノサイトという特定の細胞の中でつくられますが、このとき中心的な役割を果たすのがチロシナーゼという酵素です。
酵素は体の中で特定の反応を起こす働き手だと考えるとわかりやすいです。チロシナーゼは、チロシンというアミノ酸を材料にメラニンを組み立てる工場の機械のような役割を担っています。この機械が活発に動けば色素が多く積み重なり、動きが鈍くなれば色素の生成も減っていきます。
もともとの肌の色はなぜ人によって違うのか
肌の色が人によって違う理由も、結局はメラニンの二つの顔によるものです。メラニンには濃い茶色から黒に近いユーメラニンと、黄みや赤みを帯びた薄いフェオメラニンの二種類があり、この二つの比率が人によって異なります。
この比率を調整するスイッチのような役割を果たしているのが、MC1Rという受容体の遺伝子です。メラニン工場に取り付けられたスイッチ盤だとイメージしてください。スイッチが強く入っていればユーメラニンの生産ラインが活発に動き、スイッチが弱ければフェオメラニン側のラインが相対的によく動きます。赤毛で肌がとても明るい人がいるのも、この遺伝子の生まれつきの違いによるものだとよく説明されています。
美白注射が狙っているのが、まさにこのスイッチに近い場所です。遺伝子そのものを変えるわけではありませんが、グルタチオンが酵素反応の途中に割り込んで、そのスイッチを少しフェオメラニン寄りに動かそうとする試みだと考えると、この先の説明もぐっと理解しやすくなります。
グルタチオンがメラニンの種類を変える仕組み
グルタチオンが注目される理由は、色素生成経路の向きをユーメラニンからフェオメラニンへわずかに傾けるという報告があるからです。グルタチオンに含まれる硫黄成分がメラニン合成の途中段階でできる化合物と結合し、濃い色素の代わりに薄い色素がより多くつくられるよう反応の方向を変えるという説明です。濃い絵の具の通り道を少し狭くして、薄い絵の具の通り道を少し広げるようなイメージに近いです。
なぜこんなことが起こるのかもう少し踏み込むと、チロシナーゼという酵素が働くには、中心部に銅イオンという小さな部品がどうしても必要です。鍵穴に合う鍵がなければ扉が開かないように、この銅イオンがきちんと収まっていて初めて酵素は本来の役割を果たせます。グルタチオンの硫黄成分がこの銅イオンの場所にそっとくっつき、酵素が本来ほど働けなくしてしまうという説明があります。鍵穴に別のものが挟まって扉の動きが渋くなるのと似た構図です。こうしてチロシナーゼの働き自体を一部抑えるという報告も合わせて存在します。
抗酸化作用と美白の関係
グルタチオンは、もともと体内を代表する抗酸化物質として知られています。抗酸化という言葉は少し難しく聞こえるかもしれませんが、細胞の中にたまるサビのようなゴミを片づける掃除係だと考えると理解しやすいです。
紫外線を浴びたりストレスを受けたりすると、細胞の中で活性酸素という不安定な物質が増えます。この活性酸素は、メラノサイトに色素をもっとつくれという信号を送る経路を刺激するといわれています。火災報知器が鳴ると消防車が出動するように、活性酸素という警報が鳴ると色素生産ラインが緊急稼働に入るわけです。
グルタチオンがこの警報自体を減らしてくれれば、消防車が出動する回数も一緒に減るように、色素生産を促す信号も落ち着いていくというのが抗酸化経路の理屈です。色素経路を直接変える先ほどの説明とは別に働く、もうひとつのルートといえます。
このように知られている副次的な効果は、あとから仕組みを説明する研究がついてくることが多いのですが、最初から美白だけを目的に大規模に設計された研究は、比較的少ないのが実情です。この背景を知っておくと、このあとで触れる根拠のレベルを理解する助けにもなります。
点滴と内服、効果に差はあるのか
同じグルタチオンでも、点滴で入れる場合と錠剤や粉末で飲む場合とでは、体の中でたどる過程が異なります。
- 吸収経路が違います。飲むタイプのグルタチオンは胃や腸を通る間にかなりの部分が消化酵素で分解されます。一方、点滴は血管に直接入るため分解による損失が少なくなります。
- 血中濃度の上がり方が違います。点滴は短時間で血液中の濃度を素早く引き上げられるのに対し、内服はゆるやかに上がり、それだけ最高濃度も低めです。
- 持続時間と繰り返しの周期が違います。体内に入ったグルタチオンは時間とともに再び分解・排出されるため、どちらの方法でも一度きりでは終わらず、繰り返しのケアが必要になる点は共通しています。
内服で損失が比較的大きくなる理由には、肝臓も関わっています。腸で吸収された成分は全身の血液にすぐ回るのではなく、まず肝臓を一度通過し、この過程でかなりの量が代謝されてろ過されます。通行料を払う料金所を一度通らなければならないのに似ていて、内服はこの料金所を必ず通過する必要がありますが、点滴はここを飛ばして目的地へ直行します。
どちらが優れているかを決めつけるより、二つの方法が体の中で違う経路をたどるという点を理解したうえで選ぶのが現実的です。
効果が出るまでに時間がかかる理由
美白注射を受けたからといって、翌日いきなりトーンが変わるわけではありません。すでに肌の中にできているメラニンは、角質細胞と一緒に表面へ押し上げられて剥がれ落ちて初めて薄くなったように見えるもので、この入れ替わりの周期はふつう4週間から6週間かかるといわれています。
肌をベルトコンベアだとイメージするとわかりやすいです。ベルトの下の方で新しくつくられるメラニンの量が減っても、すでにベルトに乗って上がってきているメラニンがすべて出ていくには時間が必要です。だから効果を判断するには、少なくとも1ヶ月以上は根気よく様子を見るのが現実的です。
根拠のレベルはどこまで認められているのか
ここから先は、少し慎重に見るべき部分です。ここまで説明してきた色素転換の仕組みと抗酸化作用は、細胞実験や一部の小規模な臨床研究で観察された内容がもとになっています。仕組みそのものがまったく根拠のない話というわけではありません。
ただし、施術効果の大きさや持続期間、どの肌タイプによく反応するかについては、まだ大規模にまとまった合意が十分とはいえない状態です。論文ごとに使われた用量や投与期間、観察方法がまちまちで、結果をひとつにまとめて語るのは難しいという指摘もあります。特に点滴のほうは、内服製品に比べて設計のしっかりした研究自体がまだ少ないという点も参考になります。国内外の皮膚科学会や規制機関も、こうした理由から美白目的の使用については慎重な立場を取っています。
期待値はどう持てばいいのか
グルタチオンがメラニン経路に関わりうるという仕組みそのものは、説明がつく部類に入ります。ただ、仕組みが説明できることと、すべての人にはっきりとした変化が出ることとは別の話です。
体質やもともとの肌の色、施術の用量や回数によって、実感する程度は人それぞれ違ってきます。安全性の面でも、点滴は必ず医療スタッフの管理のもと、適正な用量で進めるべき施術だという点も合わせて覚えておいていただければと思います。
References
Korean Dermatological Association, Ministry of Food and Drug Safety (MFDS), American Academy of Dermatology (AAD), and U.S. Food and Drug Administration (FDA).
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診療を行う美容医師が執筆しており、一般的な教育目的です。個別の医療アドバイスに代わるものではありません。
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